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2022.06.15

〈編集長の北海道ワイナリー巡り〉④多田農園(上富良野) 今年も芽吹く復活のメルロー

山﨑真理子
山﨑真理子

 北大水産学部時代に1年間、練習船に乗って遠洋航海に出ていた船乗り。北海道新聞社に入社後は、社会部の警察担当を振り出しに、網走、帯広、釧路など道内各地で勤務。東京勤務時代は政権交代時の民主党の番記者として、鳩山政権誕生を取材した。2022年4月にTripEat北海道を立ち上げ、初代編集長に就任。千歳支局長を経て、24年3月から旭川報道部長。

ワイン畑の前で「この子たちには迷惑をかけてます」と話す多田繁夫さん
厳しい環境の中で育つワイン畑の前で「この子たちには迷惑をかけてます」と話す多田繁夫さん

凍害から生き残った復活のメルロー

凍害の影響で甚大な被害を受けながらも良質なブドウの実を付けた「奇跡のメルロー」の樹々
凍害の影響で甚大な被害を受けながらも良質なブドウの実を付けた「奇跡のメルロー」の樹

 いまだに覚えてます。2011年の12月8日、マイナス25度まで下がったんです。
 多田農園(上富良野町)の多田繁夫さん(70)は、昨日の出来事のように話す。
 「植えてから来年で3年目。メルローが収穫できる」と楽しみにしていた。天気予報でも冷え込むとは言っていなかった。
 「まずい」。慌てて道路脇に積もっていた雪をブドウの樹にかけたが、間に合うはずはなく、翌年は、ほとんどの樹が芽を出さなかった。
 ただ、それでもわずかな雪に助けられ、かろうじて生き残ったメルローの樹からは13年、「本当にすごい良質なブドウ」が収穫できた。「復活のメルロー」は今年も芽吹いている。

120年続く畑作農家の新たな挑戦

ワイナリーに併設された宿泊施設。ワインと無農薬野菜が楽しめる
ワイナリーに併設された宿泊施設。ワインと無農薬野菜が楽しめると人気を呼んでいる

  120年前に入植した畑作農家の3代目。20代の頃、ワインに興味を持って、山梨県勝沼市などを見てまわったことはあったが、ニンジン農家として長年やってきた。
 ワイン用ブドウの栽培を始めるきっかけは2007年、知人の病院を見舞った帰り道、岩見沢市の宝水ワイナリーに立ち寄ったこと。1週間後に「ブドウの苗木が余っているから、植えませんか?」と連絡が来た。
 しばらく悩み、断りの連絡を入れようと思った日の朝、たまたま電話をくれた知り合いに相談すると、「野菜とワイン、びったりじゃないの!」と背中を押された。「そうか、野菜農家がワインを造ってもいいのか」と、すとんと心に落ちた。

最良のブドウは、厳しい条件下で生まれる

直売所に並ぶワインボトル
直売所に並ぶワインボトル。描かれたブドウの樹の根は、壮大な大地の恵みの象徴として描かれている

 委託醸造によるワイン造りを経て、2016年には醸造所を開設。除草剤は一切使わず、最低限の農薬のみでメルロー、ピノ・ノワール、シャルドネなどのブドウを育てる。「リスクが高い」と言われていた野生酵母にこだわり、酸化防止剤もほんのわずかかしか使わない。
 かなり遠回りしてきた、と思う。だが、長年農家をやってきた経験から「失敗に気づいてから修正する能力はある」。昔、聞いた「最良のブドウは、やっとのことで熟した厳しい条件の中から生まれる」との言葉を胸に、「15年経って、かなりのレベルまできた」と自負している。

〈編集長の北海道ワイナリー巡り〉③相澤ワイナリー 56年ぶりに誕生した十勝に吹く新しい風

ワイン造りのロマンをワインボトルに描く

十勝岳連峰など山々に囲まれたブドウ畑
山々に囲まれたブドウ畑。美しい景観も魅力の1つになっている

 多田農園を訪れた春先、真っ白な雪を頂いた十勝岳連峰が美しく眼前にそびえていた。200万年前からの数々の噴火活動によって形成された十勝岳連峰。それら噴火によってできた火山灰層に根を張るブドウの樹は、十勝岳や富良野岳からのミネラル分を含む伏流水を吸い上げ、実をつける。素晴らしいロケーションに、多田さんは「そう考えるとロマンですよね。それをイメージしたのが、ワインボトルに描かれたブドウの樹の根なんです」と教えてくれた。

 導かれるようにして始まったブドウ栽培とワイン造りについて、多田さんは、こう振り返る。「いろんな人にお世話になった。人と人のつながりの中で今の自分は成り立っている。『生かされている』というのが正しいのかもしれないですね」

◇    ◇    ◇

<多田農園>上富良野町東9線北18号。直売所のほか、宿泊施設「プチペンション田舎俱楽部」があり、ワインや自家農園で栽培した無農薬野菜などが味わえる。宿泊施設の今年の営業は10月 11日までを予定している。詳しくはHP(https://ninjin-koubou.com/)。

 北海道にあるワイナリーは53を数え、今やワインの一大産地となっています。地形や気候、積雪量の違いなど、生産者たちは地域ごとのテロワール(風土)を生かし、時には自然と戦いながらブドウの樹を育て、ワイン造りをしています。
 人とブドウの生命力が勝ち取った「命の恵み」でもあるワイン-。そんなワインを生み出す北海道のワイナリーを編集長の山﨑が巡ります。

(※記事中の情報は記事公開当時のものです)

山﨑真理子
山﨑真理子

 北大水産学部時代に1年間、練習船に乗って遠洋航海に出ていた船乗り。北海道新聞社に入社後は、社会部の警察担当を振り出しに、網走、帯広、釧路など道内各地で勤務。東京勤務時代は政権交代時の民主党の番記者として、鳩山政権誕生を取材した。2022年4月にTripEat北海道を立ち上げ、初代編集長に就任。千歳支局長を経て、24年3月から旭川報道部長。

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