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2022.09.12

〈編集長の北海道ワイナリー巡り〉⑩ワイナリー夢の森(余市町) ワイン文化を育む子供たちの夢の畑

山﨑真理子
山﨑真理子

 北大水産学部時代に1年間、練習船に乗って遠洋航海に出ていた船乗り。北海道新聞社に入社後は、社会部の警察担当を振り出しに、網走、帯広、釧路など道内各地で勤務。東京勤務時代は政権交代時の民主党の番記者として、鳩山政権誕生を取材した。2022年4月にTripEat北海道を立ち上げ、初代編集長に就任。千歳支局長を経て、24年3月から旭川報道部長。

ブドウの収穫体験をする幼稚園の子供たち
ブドウの収穫体験をする幼稚園の子供たち

子供たちの自然体験用に畑を購入

青空の下の「ワイナリー夢の森」ブドウ棚
青空の下のブドウ棚

 「子供たちが自然体験できる畑を維持するために始めたけれど、地域の人に喜んでもらえて、畑も維持できて、本当にやってよかったと思っている」
 余市町の「ワイナリー夢の森」代表の大下聡さん(75)は言う。

 余市出身で、中学校の社会科教諭だった大下さんは、60歳の定年退職を機に、妻が町内で運営する幼稚園の経営に参加した。教育方針について抜本的に見直し、自然体験と食育に力を入れるため、畑を買うことを決めた。
 本当は20~30アールほどの畑を探していたが、「そんな小さく畑を切り売りする人はない」と言われ、3ヘクタールを購入した。「勢い」で買ったが、いざ管理しようとすると「広すぎて手が回らなかった」。

ワイン造りは畑を維持するための手段

ワイナリー夢の森の外観
ワイナリー夢の森

 畑には、前の持ち主が契約栽培していたワイン用ブドウの「セーブル」が30アールほど残されていた。「ワインを造れば、維持できるかも」。数年前に道内初のワイン特区に認定された余市町では、ワイナリーが続々と開設していた。「俺でもできるんじゃないか?」と簡単に考えた。

ワイナリー夢の森のワインの貯蔵タンク
ワインの貯蔵タンク

 2016年9月、醸造免許の取得と同時に醸造所も完成した。翌月、山梨からコンサルタントを呼んで、早速仕込んでみたが、「あなたは日本一ワインを知らないワインを造る人だね。アドバイスはする。来年からは自分で自分のワインを造りなさい」と言われ、顔面蒼白(そうはく)になった。

余市で一番おいしくないワイン?

出荷を待つワイナリー夢の森のワインの数々
出荷を待つワイン

 翌年、製造工程の一つの変化に不安になり、その都度コンサルタントに電話で聞きながら、ワインを仕込んだ。完成したワインを舌の肥えた地域の人たちに飲んで貰うと「余市で一番おいしくないワインだね」と笑われた。
 1ヘクタールの畑で3000本を造る。いろいろな人に聞きながらワイン造りを続けるうちに、少しずつ評価されるようになり、2019年産くらいからは完売するようになった。

生まれた責任感。魂込めて

 大下さんは「全く技術は確立していない。味もよく分からないし、どうしたらいいか分からない。『少しおいしくなったな』と日々学習する。そんなレベル」と謙遜する。ただ売れるようになって、強い責任感が生まれたという。待ってる人がいるのに失敗したとは言えない。「魂の入り方が違う」と自分でも感じている。

ワイナリー夢の森のブドウ畑
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子供たちとの約束の日を夢見て

ワイナリー夢の森で、ブドウの足踏み体験をする幼稚園の子供たち
ブドウの足踏み体験をする幼稚園の子供たち

 ワインのおかげで、幼稚園の子供たちは念願通り、ブドウやプルーン、リンゴなど町の主要作物が実る畑を最高の遊び場に自然と触れ合っている。ジャガイモを育て、キャベツやブドウを収穫。年長さんはブドウの足踏み体験をする。そして卒園時には記念として、赤と白のワインを1本ずつ卒園者の家族に贈る。

ブドウ畑をバックに笑顔を見せる「ワイナリー夢の森」代表の大下聡さん
「ワイナリー夢の森」代表の大下聡さん

 巣立つ子供たちと毎回約束していることがある。20歳になった時、みんなでワイナリーに集まって、ワインを飲むこと。ワイナリーが完成した翌春卒園した子供たちは小学6年生になった。あと8年。その日が来るのを楽しみにしながら、ワインを造っている。

◇    ◇    ◇

<ワイナリー夢の森> 余市町豊丘町59の3。土日、祝日は、事前連絡があれば現地直売に対応する。TEL0135・48・5736へ。

 北海道にあるワイナリーは53を数え、今やワインの一大産地となっています。地形や気候、積雪量の違いなど、生産者たちは地域ごとのテロワール(風土)を生かし、時には自然と戦いながらブドウの樹を育て、ワイン造りをしています。
 人とブドウの生命力が勝ち取った「命の恵み」でもあるワイン-。そんなワインを生み出す北海道のワイナリーを編集長の山﨑が巡ります。

(※記事中の情報は記事公開当時のものです)

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山﨑真理子
山﨑真理子

 北大水産学部時代に1年間、練習船に乗って遠洋航海に出ていた船乗り。北海道新聞社に入社後は、社会部の警察担当を振り出しに、網走、帯広、釧路など道内各地で勤務。東京勤務時代は政権交代時の民主党の番記者として、鳩山政権誕生を取材した。2022年4月にTripEat北海道を立ち上げ、初代編集長に就任。千歳支局長を経て、24年3月から旭川報道部長。

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