
道南ワインの先駆けとして誕生

「西洋式農業発祥の地」をうたい、明治初期からブドウの試験栽培や果実酒の醸造が行われていた北海道・七飯町にある「はこだてわいん」は1973年、道南ワインの先駆けとして誕生した。
ルーツは、1932年に醸造免許を取得した函館市の小原商店(現・小原)が、駒ケ岳近郊で自生するヤマブドウを醸造したのが始まり。その果実酒類製造部門を独立させる形で、73年に設立されたのが前身の駒ケ岳酒造で、84年に七飯町へ移転するのと同時に現在の社名に変更した。
いち早くワイナリーを設立し、第2次世界大戦前までには、樺太や千島まで販路を広めたと言われている。創業時から近隣でブドウを栽培していたが、なかなかうまく育たず、80年代前半には断念。余市や仁木の契約農家などからブドウを購入して、ワインを造ってきた。
家庭用から高級ワインまで80銘柄

20年以上前から高度な醸造技術が必要な生ブドウから造る酸化防止剤無添加ワインを製造。家庭用から高級ワインまで約80銘柄をそろえ、国内のワインコンクールでも多くの受賞歴を持つ。また当初から、さまざまな果物を原料にしたフルーツワインを造り、道内外に販路を拡大してきた。
ワイン産地として注目集める道南

創業から半世紀が経過し、道南は今、新たなワイン産地として注目を集めている。2019年には、フランスで300年続く老舗ワイナリー「ドメーヌ・ド・モンティーユ」が函館に進出。23年に自社ブドウ園でのワイン生産とワイナリー開設を目指すなど、ワイナリーへの新規参入に向け、ワイン用ブドウを栽培する個人や法人が相次ぐ。
念願の自社畑を復活

「地元で栽培できる環境が整った」として、はこだてわいんは5年前、会社からすぐの小高い丘に1.7ヘクタールの土地を借り、「長年の夢」だった自社畑を構えた。天気が良い日には、新幹線の車両基地や函館山が一望できる絶好のロケーションに、カベルネソービニヨン、シャルドネ、リースリング、メルロー、ピノ・ノワールの5種類のブドウを育てる。
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初ビンテージをリリース

道産ワインブームなどもあり、ブドウの苗木の確保に苦労したが、2年前から収穫できるようになった。今年7月には、念願の自社畑産のブドウを使った初ビンテージ「北海道100プレミアム 七飯シャルドネ2020」を400本ほどリリース。「概ね好評で、非常に喜んでもらった」(同社)といい、1カ月を待たずに完売したという。
11月18日には、同じシャルドネの21年ビンテージ(750ミリリットル入り、4180円)を同社直売店で限定販売する予定だ。20年、21年ビンテージともまだ数量限定だが、今年の収穫量は増えそうで、来年からは自社畑のブドウで造ったワインを本格販売するという。

同社企画室の松田崇さん(47)は「自社畑の復活は長年の夢。国内のワイン需要の高まりで、原料確保に苦労することが増えてきたので、自社畑で一房一房手塩にかけてブドウを育て、多くの人に質の良いワインを届けていきたい」と話す。
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<はこだてわいん> 七飯町上藤城11。直営店「葡萄館」は、本社工場に隣接する本店と、函館ベイエリアにある西部店があり、無料試飲や限定商品が人気。本店では工場見学(予約制、無料)のほか、名物「ワインソフトクリーム」(300円)が楽しめる。詳しくはHP(https://www.hakodatewine.co.jp/)へ。


北海道にあるワイナリーは53を数え、今やワインの一大産地となっています。地形や気候、積雪量の違いなど、生産者たちは地域ごとのテロワール(風土)を生かし、時には自然と戦いながらブドウの樹を育て、ワイン造りをしています。
人とブドウの生命力が勝ち取った「命の恵み」でもあるワイン-。そんなワインを生み出す北海道のワイナリーを編集長の山﨑が巡ります。
(※記事中の情報は記事公開当時のものです)