山梨からピノ・ノワールを求めて北の大地へ
1988年創業の北海道中央葡萄酒千歳ワイナリー(千歳市)は、木村農園(余市町)で栽培される「ピノ・ノワール」と「ケルナー」というブドウ品種にこだわり、ワインを造っている。北海道では近年、ピノ・ノワールを使ったワインが多く造られるようになったが、その成功は両者の二人三脚による挑戦の成果ともいえる。
木村農園と二人三脚で
千歳ワイナリーは、山梨県勝沼町(現・甲州市)にある大正時代から続く中央葡萄酒の第2のワイナリーとして、世界水準の国産・自社製ピノ・ノワール醸造を目指す北海道の醸造拠点として設けられた。
当時、千歳市農協(現・道央農協)が力を入れ始めていたハスカップを広めていくための起爆剤としての酒造りを請け負う一方、山梨で試験栽培していた涼しい気候を好む品種ピノ・ノワールを栽培してくれる契約農家探しをしていた。唯一、受けてくれたのが、1980年代後半からピノ・ノワールを作り続けていた第一人者の木村農園だった。
ピノ・ノワールに取り組み 苦節10年
赤ワインの定番品種であり、高品質なワインを生み出すピノ・ノワール。涼しい気候を好む品種だが、北海道は「寒すぎて育たない不毛地帯」と言われていた。木村農園と二人三脚で1993年から始まったピノ・ノワールによるワイン造りは、なかなか思うようにいかず、10年ほど苦しい時代があったという。
千歳ワイナリー創業者で中央葡萄酒社長の父・三澤茂計さん(74)から、2012年に千歳ワイナリーを継いだ計史さん(39)は「費用対効果を考えると途中で止めてもおかしくなかった。互いに『もっと良いものを』と刺激し合ったからこそ、技術が確立できた」と思いを馳せる。
「鳴かず飛ばず」の時を過ごしていた2006年、これまでと違ったブドウが採れた。08年には「素晴らしく良いビンテージを経験した」。
〈編集長の北海道ワイナリー巡り〉⑩ワイナリー夢の森(余市町) ワイン文化を育む子供たちの夢の畑
さらなる高みを目指し
現在、木村農園の2ヘクタールほどの区画で、ピノ・ノワールとケルナーの2品種を栽培し、メインブランド「北ワイン」として醸造、販売している。2012年収穫のピノ・ノワールからは、樽熟成中の官能検査結果を元に優れた数樽を選び出し、造ったフラッグシップワイン「北ワイン ピノノワール プライベートリザーブ」の販売も始めた。
農園主も代替わりし、二人三脚によるワイン造りが次の世代に託された今、計史さんは「北海道を世界に通用するワインの産地、ピノ・ノワールの産地にしてほしい」との父から受け取った願いを胸に、「『北海道のワイン』のシンボルのような、最高峰のピノを造りたい」とさらなる高みを目指す。
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<北海道中央葡萄酒千歳ワイナリー> 千歳市高台1の7。直売所を併設し、前日までに予約すれば工場見学ツアー(無料)に参加できる。有料の工場見学やテイスティングツアーはコロナ禍で休止中だが、有料試飲は一部再開している。詳細はHP(http://www.chitose-winery.jp/)へ。
北海道にあるワイナリーは53を数え、今やワインの一大産地となっています。地形や気候、積雪量の違いなど、生産者たちは地域ごとのテロワール(風土)を生かし、時には自然と戦いながらブドウの樹を育て、ワイン造りをしています。
人とブドウの生命力が勝ち取った「命の恵み」でもあるワイン-。そんなワインを生み出す北海道のワイナリーを編集長の山﨑が巡ります。
(※記事中の情報は記事公開当時のものです)