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2023.08.04

編集長のご褒美女子旅 2023 vol.3 道北編㊦最北のワイナリーを訪れ、地元産絶品羊肉とビールを楽しむ

小川郁子編集長
小川郁子編集長

 苫小牧生まれ、札幌育ち。ビール、ワイン、日本酒、お酒全般、控えめにいって好きです。食べ物の好き嫌いもほとんどありませんが、ウナギやハモ、アナゴなどニョロっとしたものは苦手です。1996年に北海道新聞入社後は、道内各地や東京で1次産業や政治、行政などを担当しました。2023年5月からTripEat北海道編集長。

「しずお農場」では、広々した草地に親ヒツジが放牧されています

 道北編の後半は、美深にひっそりたたずむ素敵な隠れ宿に泊まり、翌日、最北のワイナリーを訪れます。羊にまつわる食、士別産ジンギスカンも味わい、お土産にチーズやかわいがられて飼われている牛のミルクなども手に入れました。

客室は3室のみ 静けさを楽しむ石れんが造りのホテル「青い星通信社」 

夕闇に浮かび上がる「青い星通信社」の建物

 今日の宿泊は、美深町内に戦後ほどなく建てられた石れんが造りの建物を大幅改修してオープンした「青い星通信社」です。日没間際の夕闇に、ぼんやりと浮かび上がった建物が見えてきました。3室のみの小規模ホテルで、神奈川県出身で元旅行雑誌編集者の星野智之さんと、帯広市出身で元キャビンアテンダントの鶴史子さんが運営しています。

入り口すぐのまきストーブ
村上春樹のコーナーも設けられたライブラリー

 入り口を入ると、2人がけのテーブルと4人が座れるカウンターを備えたラウンジがあります。今回は夕食を外でとり、朝食のみでしたが、お願いすれば夕食と朝食はここで提供され、カウンターは夕食後、バーとしても利用できます。左手には、ライブラリーが。美深町が村上春樹の「羊をめぐる冒険」の舞台になったとされていることにちなみ、村上春樹の小説を集めたコーナーもあり、写真集、現代文学、雑誌なども収蔵されています。その奥、JR宗谷線の線路に面した方角に向けて小さな窓がある小部屋があります。カウンターといすが設置され、たまにしか通らない列車を眺めることもでき、鉄道ファンに人気です。

もとの建物の外側に2棟をつなぐ渡り廊下を増築したので、右側には本来、外壁だった石れんがの壁が見えます

 建物は旧警察法に定められ、戦後ほどない間のみ設置された国家地方警察の官舎として1651年に建設されました。わずか13年しか使用されておらず、南棟は地域の公民館のような施設として活用されていましたが、北棟は当時のままでした。石れんがは石炭を燃やした炭殻が練り込まれており、炭殻を骨材にモルタルやコンクリートで固めたもの。どこでどうやって作られたものかは分かりません。

 建物はラウンジのある北棟と客室のある南棟に分かれており、渡り廊下でつないでいます。建物の外壁は石れんが造りで、改修時につくった渡り廊下の壁も、外壁と同じ石れんがが見えます。

広々したクイーンサイズのベッドが置かれた「火影」の寝室
洗面スペースとワーキングスペースが効率よく配置されています

 客室はツインの「水脈」、クイーンサイズのベッドのある「火影」と「風笛」の3つ。風笛には小さな和室も備えています。各部屋とも、洗面スペースとトイレ、シャワーブース付き。どの部屋にもテレビはありません。宿泊した「火影」には、カウンター式のワーキングスペースがあり、仕事を持ってきても広々と使えそうです。

シンプルでおいしい朝食

 朝食は、鶴さん手作りのパンやマーマレードが付く洋食プレート。ジュースとハムエッグ、サラダ、ポタージュスープ、サクランボとシンプルですが、ハムのおいしさやちょうどいい卵の固さ、ポタージュの優しい味わいなど、随所に気配りが感じられ、心がほっとして、今日も1日頑張ろうと思える朝ごはんです。

仲良く「青い星通信社」を運営する星野さん(左)と鶴さん

 東京に住んでいた星野さんと鶴さんは以前から、地方で小さな宿を営むことを考えていたそうです。北海道や沖縄、大分などを見て回り、美深のこの建物に出会いました。2017年7月に美深町に移住しましたが、そのまま2人は14室しかない山形県の温泉旅館に住み込みで修業。2018年10月からこの建物を改修、19年6月に宿をオープンさせました。

 JR宗谷線が見えることから鉄道ファンや、天塩川が近いので釣り客、村上春樹ファンなどの来客を見込んでいましたが、実はこの石れんがの建物を珍しがる建築関係の人たちが一番多いそうです。珍しい建物を生かし、雰囲気良く改修したことが、奏功したようです。

建物前の牧草地では、行った前日に牧草がロールにされていました
冬以外はたびたび姿を見せる外猫

 付近は酪農地帯でポツポツと民家がある程度。3室とはいえ、観光客が来訪するようになることから、2人はオープン前、近所の人たちを集めて、小さな宿をつくることを説明したといいます。すると、地元の人たちは口々に「あそこは座敷童が出るからやめたほうがいい」「(宿のすぐ横の)踏切で自殺者がいて、幽霊が出る」などと疑問視したそうです。

 それでも、2人が宿を始め、本州や海外からの観光客が来るようになると、地元の人たちも受け入れてくれるようになったそう。鶴さんが1人で宿にいた時、地元の人が黙って敷地内の草刈りをしてくれたりしたことがあって、驚いて星野さんに「知らない人がうちの草刈りしてる」とメールをしたことも。宿泊客がいない時には、ラウンジのバーを地元の人たちに解放することもあり、近所の人たちが集まってきてくれるようになったそうです。

住所/美深町紋穂内108
電話/080・9002・7724

挫折にめげず挑戦を続けてきた国内最北のワイナリー「森臥」

森臥のショップとヴィンヤード

 国内最北のクラフトビールを味わったので、今度は国内最北のワインを買いに行きます。名寄市の森臥(しんが)です。10数年前にブドウづくりに挑戦、病気で全滅してしまったものの、1度の挫折にめげることなく、2011年から再びブドウを植え、14年から委託醸造を続けているワイナリーです。

ヴィンヤード前でワインを手にする竹部さん

 森臥では今年、1ヘクタール増やし3ヘクタールで5千本のブドウを育てています。代表取締役の竹部裕二さんは会社員から新規就農、もち米を作っています。ワインが好きで、「ブドウを作りたい」という名寄出身の妻麻理さんの希望で、2006年にブドウ生産に挑戦したものの、病気で全滅。翌年も、土に病気が残っていたようで、失敗しました。

 専門家らに「名寄では無理では」「せめて旭川近郊に」と指摘を受けたものの、「もう一度、いつかはやらなくては」との思いを抱き続け、11年に再び挑戦しました。13年春に委託醸造を請け負う岩見沢市の10Rワイナリーを訪ね、「秋にはブドウを持ってきます」と言ったものの、この年は不作で十分なブドウがとれず、醸造は断念。14年秋にはようやく、ブドウとともに岩見沢に乗り込み、ワインをつくりながら、醸造を学びました。19年にはワイナリーを建設。それ以降は豊作が続き、毎年ワインを醸造しています。

この日販売していた森臥のワイン
これまでにリリースした各ビンテージのびんが飾ってあります

 この日、販売していたのは、すっきりとした酸とクリアな果実の香りで、クリアな白の微発泡、バッカス100%の「Dear2022」(3500円)と、花のような香りとしっかりとした酸、柑橘のさわやかさが感じられる白の「2021Bacchus」(3千円)。バッカスはこの年、記録的な猛暑と干ばつで通常は10月の収穫を9月末に収穫を開始、すぐに圧搾したそうです。ショップには、これまで醸造してきたワインのびんが並び、各ヴィンテージのエチケットを見ることができます。

 「森臥」は造語だそうです。当初、森羅万象から「森羅」としようとしましたが、商標登録されていたため、音が似ている「しんが」に漢字を当てはめました。その後、竹部さんの妹の山本美和さんがロゴを作成。森をバックに月の下、人が歩いているようなデザインになりました。最北のワイナリー森臥では、芽吹きの6月ごろにも、霜が降りることがあります。そのころには夜中に畑一面にキャンドルをともし、その熱でブドウの花芽を守ります。竹部さんは「夜中にブドウを見回って月の下を歩くこともあるから、ちょうどぴったり」と笑います。

広々としたヴィンヤード

 埼玉県出身で、会社員を経て、就農を目指して名寄に移住、麻理さんと出会った竹部さん。研修中に「くわを持ってきて」と言われ、どれか分からず納屋にあった棒状の道具を全部持っていって笑われたというほど、「農業の素人だった」そう。ブドウの栽培にも師匠はおらず、「マニュアルを読みながら、勉強しながらつくっています」と言います。それでも、「知識と技術がない分、ほかでは『そんなことまでしなくていいよ』ということでも、手間だけはかけています」と自負します。

 9月中旬にはもち米の収穫が始まり、10月に入るとブドウを収穫し、ワインの仕込みがスタートします。もち米とワインの「二足のわらじ」の竹部さんにとって、夏を越すと最も忙しい季節がやってきます。

住所/名寄市弥生674
電話/01654・3・2400
営業時間・定休日/不定
〈山﨑編集長のワイナリー巡り〉①最北のワイナリー森臥(名寄市)かがり火を焚きながらブドウを守る

まろやかで素朴なチーズ 障がい者が丁寧に手作りする「マヤッカ」

自慢のチーズを見せる就労支援員の鈴木さん(右)と施設利用者

 森臥でワインを購入した後、同じ名寄の中心部にチーズ工房があると聞き、足を伸ばします。「チーズ工房マヤッカ」です。就労継続支援B型事業所のチーズ工房は道内でも珍しいそうです。障がいのある人たちが地元の生乳を使い、丁寧にチーズをつくっています。

 製造、販売しているチーズは5種類。ストリングスとモッツァレラは100グラム500円、ストリングスの黒コショウは100グラム550円、ゴーダは80グラム600円、カマンベールは150グラム1100円と、一般の手作りのチーズ工房に比べ、手頃な価格です。ほかに、カマンベール、モッツァレラ、ゴーダ、ストリングスが80グラム各300円の「ミニ」もあります。

 生乳は名寄市内の酪農家から仕入れています。チーズは全体的に塩気が優しく、まろやかで素朴な味わい。子どもでも食べやすく、サラダやフルーツと合わせても良さそうです。マヤッカ所長の兼平輝明さんは「実は乳製品が苦手で、チーズは食べられませんでしたが、うちのはおいしい。市販品とは全然違います」と胸を張ります。

商店街にある「チーズ工房マヤッカ」

 チーズ工房は株式会社Faroが2011年、開設しました。マヤッカ所長の兼平輝明さんによると、Faroは障がいのある人の生活訓練施設やグループホームを運営していましたが、「働く場所がない。自分で作ったものを売る喜びを感じられる施設をつくろう」とチーズ工房をつくったそうです。下川町でチーズ工房を営んでいた鈴木直樹さんを就労支援員に迎え、チーズづくりがスタート。

 作業はチーズの種類によって違い、ホエーを抜くため、製造時の室温は28~30度と高温にしなければならず、障がいのある人たちにとっては、難しい職場です。それでも鈴木さんは、何度も丁寧に指導、利用者も一生懸命作業を覚えていきました。利用者の男性は「特にゴーダは半年間毎日、磨き続けるので大変。モッツァレラも熱いお湯で成形しなくてはならず、手が熱い。でも、お客さんが買いに来てくれてうれしい」と話します。障がいのある人たちが誇りを持って仕事をしているのが分かります。

 ちなみに、マヤッカはフィンランド語の灯台。運営するFaroはイタリア語の灯台を意味し、「障がいのある人のまちの灯火に」との意味を込めているそうです。

住所/名寄市西1条南6丁目20
電話/01654・8・7070
営業時間/午前10時~午後4時
定休日/水曜。その他不定休あり

モモ、肩、ロース…味わい深いジンギスカンを 羊牧場が営むレストラン「ペコラキッチン」

ホゲットのモモと肩(奥)とロース(手前)

 羊をテーマの一つにした道北編。お昼ご飯はジンギスカンにしましょう。士別市に移動し、羊牧場「しずお農場」が運営するレストラン「ペコラキッチン」に向かいます。士別市街地を見下ろす高台で、無煙ロースターで焼いた絶品ジンギスカンを味わうことができます。

地元のクラフトビール「士別サムライブルワリー」

 メニューを見てみると、士別のクラフトビール「士別サムライブルワリー」のビール3種があります。ゴールデンエールの煌(こう)とIPAの雅、ウィードエールの寵(ちょう)のうち、雅をオーダー。フルーツのようなフレーバーとホップの香りのある優しい味です。

まずはモモと肩の「上」から焼きます。無煙ロースターが煙をぐんぐん吸い込みます

 士別サフォークスライスセットの上(2750円)と特上(3630円)をお願いし、食べ比べてみます。いずれも焼野菜とライス付きです。上はモモと肩、特上はロース。いずれも育成が12~15カ月のホゲットです。ペコラではIHで焼くため、一般的な半円型ではなく平らな板状の鋳物のジンギスカン鍋を使用。IHは火力が強く、熱の伝導率のいい鋳物の鍋は、ジンギスカンにぴったりだそうです。ロースターのすぐ横に集煙装置があるので、煙がほとんど来ず、服に匂いが付くこともありません。

 さっそく、ジンギスカンを焼いていきます。しずお農場社長の山下卓巳さんが、サーブしてくれました。まず、羊の脂身を鍋全体に行き渡らせます。まずは、モモ。赤身で肉質はしっかり締まっていますが、固くはなく、歯切れが良いです。食べやすく、あっさりしていています。肩は、羊肉らしい香りがあり、「ジンギスカンを食べている」という実感があります。

ロースは片面を焼いた後、立てて脂の部分にしっかり火を通します

 白い脂身が付いているのが、ロースです。ロースはまず片面を焼いて色が変わったら、肉を半分にたたんで縦に持ち上げ、脂身の部分を鍋に押し当てて火を入れます。山下さんは「脂をしっかり焼きます。羊肉は融点が高く、腸内でも脂が溶け出さず、吸収されにくいので、胃もたれや胸焼けもありません」と話します。

 たれもありますが、お肉は竹炭入りの塩で食べるのがおすすめ。ソルトコーディネーターの青山千穂さんに依頼して選定した秋田県産の竹炭入りの塩で、粒が粗く真っ黒ですが、しょっぱさよりもミネラルが感じられます。

 野菜は最初にのせ、なべの縁に寄せておき、羊肉の脂をしっかりまとわせ、揚げ焼きのような状態に。もやしはパリパリとした食感で、ナスは脂を吸って、ジューシーです。

イベントなどで販売するバラ肉の串
脂のうまみがたまりません

 山下さんが、イベントなどで焼いて販売するバラ肉の串と、士別サフォークソーセージもごちそうしてくれました。ソーセージも羊肉100%。すね肉など、ジンギスカンや食肉として出荷していない部位でつくっているそうです。パリッとした皮をかじると、羊肉の香りが感じられる肉汁があふれます。バラ肉はむっちりした5切れほどが刺さり、一口かじると、ジューシー。おいしい羊の脂がジュワッとしみ出します。間にはさんだタマネギも、羊の脂を吸ってクタクタです。山下さんは「実はバラ肉が一番好きです」と教えてくれました。

草を食む親ヒツジ。この日は気温が高く、ほとんどのヒツジは木陰や屋根の下で休憩していました

 しずお農場では現在、サフォークの親280頭と今春生まれた子330頭を飼育しています。サフォークの飼育数では国内最多です。親は敷地内で放牧し、子は畜舎の中で飼料管理して育て、生後10カ月から出荷が始まります。生後1~2年の羊肉をホゲットといい、マトンほどにおいが強くはなく、ラムよりも深みのある味わいが特徴です。

羊舎で飼われている子ヒツジ

 親は羊特有の香りを付けるため青草を食べさせるほか、羊肉のうまみを出すのに欠かせない大豆や麦も与えます。士別には製糖工場もあり、ビートの絞りかすも欠かせません。山下さんは「絞りかすを与えるのとそうでないのは、脂が全然違う」と言います。

 しずお農場は6割を自社販売し、4割を主にジンギスカン店に出荷しています。国産の羊肉は貴重です。「イタリアンやフレンチには出さないのですか」と尋ねると、山下さんは「むしろジンギスカンのほうが、羊肉の良さやうまさを実感できる」とこだわりをみせました。

レストラン2階のファームインの寝室
ファームインの浴室

 実はレストランの2階は、宿泊できる「ファームインλ(ラムダ)」となっています。部屋は2~3人が宿泊できる4室で、うち1室はペット同伴可です。屋根の傾斜を生かした窓があり、明るく開放的な雰囲気です。お風呂は共用ですが、広々しています。

3年前にオープンした「焚き火キャンプ場士別ペコラ」。ペコラはイタリア語でヒツジ
ペコラカフェでは生ビールやハイボールなどを販売

 2020年からは、「焚き火キャンプ場士別ペコラ」も開設しました。車を乗り入れられるキャンプスペースが60サイトあり、羊たちが放牧されているのが眺められる場所や夕陽がきれいに見える場所、木立の中にあり、緑に囲まれた場所など、さまざまなロケーションを選ぶことができます。コンテナ4棟とキャンピングカー1台も備えており、そこで宿泊することもできます。キャンプサイトでは、ラム肉やジンギスカンなどのデリバリーもでき、入り口のコンテナ「ペコラカフェ」では生ビールやハイボール、かき氷を販売しています。

 ジンギスカンを食べると、ビールなどのお酒が飲みたくなってしまいますが、ファームインやキャンプ場が併設されていれば、ハンドルキーパーがいなくてもみんなでお酒を楽しむことができます。

住所/士別市東4条21丁目473-103
電話/0165・22・4545(キャンプ場 080・5152・3619)
営業時間/午前11時~午後3時
定休日/水曜

ストレスなく飼われた牛のミルク 幸せな味を届ける「クリーマリー農夢」

クリーマリー農夢の牛乳や野の花菓子店のお菓子が売られている「MilkBar」

 旭川から札幌にJRで戻りますが、その前にお土産を買いに立ち寄りたいところがありました。旭川市の牧場「クリーマリー農夢(ノーム)」の直売所「MilkBar」です。この牧場ではストレスを与えない飼い方で牛を健康に育て、安全な製品を生み出す家畜福祉(アニマルウェルフェア畜産)の認証を受けています。旭川勤務時代、何度か買い求めたことがあり、ここの牛乳は味わい深く、ヨーグルトも自然な酸味があり、とてもおいしいのです。

自然な酸味のヨーグルト(左)と低温殺菌牛乳(右)、バター

 低温殺菌牛乳(900ミリリットル、600円)とローファットヨーグルト(900グラム、640円)、バター(100グラム、600円)を購入。牛乳は63度、30分の低温殺菌で、カルシウムやタンパク質の変化や消失が少ないのが特徴。くせがなく、さわやかな甘みがあり、後味はさっぱりしています。均質化(ホモゲナイズ)していないので、搾ってから1週間後の消費期限近くになるとびんの上のほうに純粋なクリームの濃い層ができます。コーヒーに入れたり、料理に使うといいそうですが、実は私はこれをぺろっとなめるのが好きです。

 ヨールグルトは乳脂肪分を分離した無脂肪乳でつくっており、乳酸菌の力だけで固めています。味や固さは季節により変わりますが、ちょっと酸が強めで、雑味がありません。バター(100グラム、600円)は実は初めて購入。旭川勤務時、足を運ぶたびに「ありますか」と尋ねたものの、いつも品切れの「憧れの品」でした。バターは木製樽のチャーンと呼ばれる昔ながらの機械を使い、生クリームを激しくかき混ぜて作ります。手作業のため、作る量も限られます。チーズ(100グラム、500~800円)は、ナッティやモツァレラ、ストリングなど8種類あります。

「野の花」菓子店のお菓子やジャムも販売

 店内では、クリーマリー農夢の乳製品を使った菓子をつくる「野の花菓子店」のお菓子も販売しています。牛形のクッキー「うっしっし」やパウンドケーキ、クッキー、イチゴやサクランボ、ルバーブのジャムなどが並びます。

クリーマリー農夢の牛舎。牛が搾乳されているのが見えます

 この牧場で現在、搾乳している牛は、8歳の「あき」を筆頭に、5頭だけ。ほかに、今年4月に生まれた子牛2頭を飼っています。代表の佐竹秀樹さんは、この5頭から搾った生乳を加工して、それだけで暮らしています。

 牛1頭当たりの年間搾乳量は、全道平均の8845キロリットルに対し、ここでは約6千キロリットル。廃用にするまでに全道平均では3.2産するのに対し、クリーマリー農夢では7・5産と大きく離れています。

 家畜は「経済動物」とされます。酪農という産業の中で、効率や生産性を考えた時、1頭からできる限りたくさん搾り、効率が悪くなったら「交換」することが当たり前になっています。そのため、草食動物の牛たちは、たくさん乳を出せる濃厚飼料を与えられ、管理しやすいように牛舎の中で飼われます。搾乳量が減れば、廃用牛として処分されます。決して健康的とも、さらに牛たちが幸せとはいえない環境なのが現状です。

 佐竹さんは、牛が気持ちよく過ごせることに心を配ります。牛たちは放牧。牛舎は開け放され、好きなときに出入りできます。草も好きな時に食べられます。牛は乳が張ってくると搾ってほしくて自然に戻ってきます。搾乳前には、乳頭を消毒するのではなく、温水シャワーで汚れを洗い流し、消毒した布巾でふきます。そのため、「1ミリリットル当たり5万以下」という生乳の生菌数の基準に対し、クリーマリー農夢は300程度と、文字通りけた違いの少なさです。

 クリーマリー農夢の牛たちの毛並みはとてもきれいでつややかです。名前を付けられ、ブラッシングもしてもらい、大切な家族として飼われているから顔つきが幸せそうに見えます。そんな牛から搾った牛乳や手間をかけたバターを手に入れたくて、立ち寄りました。

住所/旭川市神居町上雨紛539-9
電話/0166・63・0835
営業時間/午前9時~午後4時半
定休日/水曜、木曜
編集長のご褒美女子旅 2023 vol.3 道北編㊤羊と紡ぐ品々に触れ、最北のブルワリーを訪ねる
編集長のご褒美女子旅 2023 vol.2道央 余市・仁木編㊤道産ワイン産地で美酒を楽しむ
編集長のご褒美女子旅 2023 vol.1 札幌編①道産ワインをホテルでゆったりと

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小川郁子編集長
小川郁子編集長

 苫小牧生まれ、札幌育ち。ビール、ワイン、日本酒、お酒全般、控えめにいって好きです。食べ物の好き嫌いもほとんどありませんが、ウナギやハモ、アナゴなどニョロっとしたものは苦手です。1996年に北海道新聞入社後は、道内各地や東京で1次産業や政治、行政などを担当しました。2023年5月からTripEat北海道編集長。

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